資料を送ったあと、相手の担当者から「上司にも共有します」と言われることがあります。

前回の記事では、資料が足りないと決めつける前に、相手側で何が起きているのかを確認することについて書きました(資料はあるのに商談が進まない。新しく作る前に確認したい3つのこと)。また、必要そうなものが複数あるときは、次の1か月で何から作るかを選ぶ考え方も整理しました(「どれも必要」で決まらない。次の1か月に作るものをどう選ぶか)。

では、作るものが決まり、資料を相手に渡したあと、その資料は社内説明の場でも使えるのでしょうか。

私は、資料の種類を先に決めるのではなく、渡された人が、次に誰へ何を説明することになるのかを見るようにしています。

担当者本人が理解できることと、上司に説明できることは違う

業務システムを提供するA社があります。営業の田中さんは、顧客企業の情報システム部門で働く鈴木さんに、サービス概要と機能一覧を送りました。

鈴木さん自身は商談にも参加しています。どんなサービスなのか、どのような機能があるのか、現在使っている仕組みと何が違いそうか。田中さんとの会話も含めれば、おおよその内容は理解できています。

その後、鈴木さんから連絡がありました。

「来週の定例で上長にも説明します」

田中さんから見れば、案件が一つ前へ進んだようにも見えます。

ただ、ここで鈴木さんの机の上にあるものを想像してみます。サービス概要。機能一覧。そして、おそらく田中さんとの商談で取ったメモです。

鈴木さんの上長が定例で聞くのは、サービス概要に書いてあることだけでしょうか。

たとえば、こんな問いが出るかもしれません。

「そもそも、なぜ今これを検討しているんだっけ」
「今のやり方から、具体的に何が変わるの」
「費用はいくらかかるの」
「その金額をかけてまで、今やる理由は何?」

ここで、田中さんが送った資料を一つずつ見てみます。

「何のサービスか」は、サービス概要を見れば分かります。

一方で、「なぜ今検討しているのか」は資料にはありません。それを知っているのは、これまで社内課題を抱えてきた鈴木さんです。

「今と導入後で何が変わるか」に関係する情報は機能一覧にあります。ただし、複数のページに散らばっています。機能を一つずつ読めば違いは分かりますが、上長が短い定例の中で読み取るには時間がかかりそうです。

費用も資料には書かれています。でも、この金額を、鈴木さんが上長にどう説明するか、までは書かれていません。

資料に情報が入っていることと、その場で聞かれる問いに答えられる形になっていることは、同じではありません。

相手の席に座って資料を見直す

ここで田中さんの側に戻ります。

田中さんが追加の資料を作る前にできることがあります。鈴木さんの席に座ったつもりで、自分が渡した資料をもう一度見ることです。

鈴木さんは誰に説明するのか。その人は、何を判断するのか。そのとき、今の資料のどこを見れば答えられるのか。

こうして見ると、「情報が足りない」だけではなく、「情報はあるが、使いにくい」という状態も見えてきます。

これは、必ず新しい資料を作るという意味ではありません。

たとえば上長から聞かれそうなのが、「今と導入後で業務がどう変わるのか」だと分かっているとします。既存のサービス概要の3ページ目と、機能一覧の7ページ目に必要な情報がまとまっているなら、

「上長への説明では、この2ページを使ってください」

と伝えるだけで足りるかもしれません。

別の商談では、「他の選択肢と何が違うのか」が主な論点かもしれません。その場合は、既存資料だけでは説明しにくく、比較する観点を整理した表があったほうが使いやすい可能性があります。

また別の商談では、「なぜ今検討するのか」「何が変わるのか」「費用はいくらか」を短い時間で説明しなければならない。その場合は、既存資料から必要な情報を抜き出して、1ページ程度にまとめる選択肢もあります。

大事なのは、「社内説明には1ページの要約が必要だ」と、形式を先に決めないことです。

必要なのは、説明する相手と、その人が判断することに合わせて、必要な情報を取り出せる状態にすることです。結果として1ページの要約になることもあれば、既存資料の該当ページを指定するだけで済むこともあります。比較表を追加することもあります。

何も補わなくても、そのまま使える場合もあります。

受け取った資料は、そのまま社内共有されるとは限らない

相手側の使い方を考える理由の一つとして、公開調査も参考になります。

IDEATECH×Bizibl Technologies「BtoB商材導入で使われる『社内検討資料』の実態」(リサピー®、2026年5月、n=317)では、調査回答者の68.4%が、受け取った資料を「加工してから」社内共有していたと報告されています。

加工内容を見ると、数値や図表だけをコピー&ペーストした人が51.2%、必要部分のスクリーンショットを取った人が45.6%、ChatGPTなどのAIで要約した人が35.9%、自分の言葉で要約した人が35.5%でした(複数回答・n=217)。

詳しくは、Research #03「稟議の壁」でも整理しています。

ここから、「だから決裁者向けの要約を作ればよい」と結論づけることはできません。

ただ、少なくとも、売り手が渡した資料が、そのままの形で社内を移動しているとは限らないことは分かります。買い手側でコピーし、切り出し、要約し、自分たちなりの説明材料に変えている場合があります。

だとすれば、売り手側で考えられるのは、その加工をすべて代わりにやることではありません。まずは、相手が社内で何を説明しようとしているのかを知ることです。

「説明するときに、今の資料で足りなさそうなところはありますか」と聞く

田中さんの例に戻ります。

鈴木さんから「上長にも説明します」と聞いたとき、「分かりました。よろしくお願いします」で終えることもできます。

もう一歩だけ確認するなら、

「説明するときに、今の資料で足りなさそうなところはありますか」

と聞くことができます。

ここで、「機能の話だけなので、今の資料で大丈夫です」と言われるなら、新しいものを作る必要はないかもしれません。

「なぜこのタイミングで変えるのかを説明する必要があります」と言われたなら、その部分をどう補うか考えられます。

「他社との違いを聞かれると思います」なら、比較するときの論点を確認できます。

作るものを決める前に、相手が説明するときに足りないものを一度確認する。

その結果、新しい資料を作ることもあれば、既存資料で十分だと判断することもあります。

商談室の外までを資料設計の範囲に含めるか

この話は、営業担当者だけの工夫でもありません。

会社として考えるなら、商談室の外で資料が使われるところまでを、自社の資料設計の範囲に含めるかという判断でもあります。

商品について詳しく説明する資料を増やすことに制作時間を使うのか。買い手が社内で説明するときに必要になる情報にも制作時間を使うのか。

A社で言えば、来月の制作候補に「機能説明を増やす」と「鈴木さんのような担当者が上長に説明するための材料」のどちらを入れるか、という話です。

自社の資料が商談中だけで使われるものなのか、その後の社内説明でも使われるものなのかによって、見るべき範囲は変わります。

相手の担当者が、資料を受け取ったあと誰に説明するのか。そこでどんな問いに答えることになるのか。

そこまでを資料設計の範囲に入れるのであれば、作るものの選び方も変わってきます。

次に資料を渡した商談を、一つだけ思い浮かべる

新しいテンプレートを作る必要はありません。

まず、直近で資料を渡した商談を一つだけ思い浮かべてみてください。

そして、これだけ確認します。

渡された担当者は、上司に説明するとき、この資料をそのまま使えるか。使えないなら、何を補うか。

答えは、「比較表を作る」でも「1ページにまとめる」でも構いません。既存資料のページを指定するだけでも構いません。

「何も補わなくていい。このままで説明できる」という答えでも構いません。

形式を決める前に、まず相手が説明する場面を見る。

私は、そこから考えるようにしています。

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