商談の手応えはよかった。資料も送った。それでも、その先の話が進まない。

「比較表があった方がよかったのか」
「近い業種の事例を送れば、検討が進むだろうか」

次に何をすればいいか分からないとき、追加の資料はすぐ着手できる選択肢です。作る手段は増えていて、短い時間で形にできるものも増えました。だからこそ、「足りない」と感じた瞬間に制作が始まってしまう。

私は、商談が進まないとき、資料を足す前に確かめたいことがあります。送った資料は、誰の、どの判断を助けるために渡したのか。その資料は相手の社内でどこまで届いたのか。相手はいま、何を決められずにいるのか。資料を増やすかどうかも、何を作るかも、その答えから決めたいと考えています。

これは、営業とマーケティングの両方の立場で商談を見てきた私の判断の仕方であって、止まった商談の原因が常にここにあるという意味ではありません。ただ、確かめずに作ると、届かない資料や、答えるべき問いに答えていない資料になりやすいと考えています。

この記事では、まず一つの仮想例で3つの確認の使い方を示します。読み終えたら、自社の直近4〜5件の商談を見比べて、次に誰へ何を確認するかを一つ決めてください。書類を集める必要はありません。手元のメモと記憶で足ります。

仮想例:業務システムを提案するA社

A社の営業担当・田中さんは、顧客企業の情報システム部門の鈴木さんと初回商談をしました。鈴木さんの反応はよく、終了後にサービス概要資料と機能一覧を送付。鈴木さんからは「上長にも確認します」と返事がありました。それから2週間、連絡がありません。

田中さんは、上長向けに導入事例集を新しく作るべきか迷っています。

この商談で、3つの確認をしてみます。

確認1:その資料は、誰の、どの判断を助けるつもりで渡したか

資料には、使う人と、その人が決めることがあります。

田中さんは、サービス概要資料で候補として検討してもらい、機能一覧で要件に合うかを確認してもらうつもりでした。ただし、鈴木さんが実際に何を判断できたかは、まだ確認していません。

鈴木さんからは「上長にも確認します」と返答がありました。田中さんがまだ知らないのは、上長が何を判断する予定なのかです。予算かもしれないし、現場で使えるかの確認かもしれないし、候補として検討を続けるかの相談かもしれない。役職から決めることはできません。

つまり田中さんは、鈴木さん向けに作った資料を、誰が何を判断するか分からないまま、その先の判断にも使ってもらおうとしている。これが一つ目の確認点です。相手の名前と役職は分かっていても、「誰の、どの判断のための資料か」が言えないなら、そこを「不明」と書きます。

次に鈴木さんへ言う言葉は、こうなります。

「お送りした資料は、上長の方にはどの点をご確認いただく予定でしょうか」

確認2:「送った」と「届いた」は違う

資料の行き先には段階があります。送付した。相手が開いた。相手が社内の誰かに共有する予定がある。実際に共有した。これらは別のことです。

田中さんが分かっているのは「送付した」ことと、「上長にも確認します」という共有の予定までです。上長がPDFを開いたのか、鈴木さんが口頭で要点だけ伝えたのか、そもそもまだ共有していないのか。どれも分かっていません。

ここで「上長に刺さらなかった」と判断して事例集を作り始めると、確かめていない原因に手を打つことになります。共有されていないなら、まず確かめたいのは、その理由です。

比較検討の段階に入ると、買い手の側では「社内を通す」仕事が増えます。その様子は公開調査を整理したResearch #03「稟議の壁」にまとめていますが、目の前の商談で起きていることは聞かないと分かりません。

次に言う言葉は、まだ共有していない可能性も含めた形にします。

「上長の方へのご共有は、これからのご予定でしょうか。それとも、すでに共有されていますか」

これから共有するなら、「説明にあたって、補足が必要な点はありますか」と聞けます。

確認3:相手が決められずにいるのは、何か

「社内で検討します」の中身は、外からは見えません。予算枠がまだないのか。今のやり方と比べて何が変わるのか説明できないのか。導入の時期が合わないのか。今期の優先度が低いのか。

どれに当たるかで、次にやることは全く違います。だから、相手が実際に口にした言葉を残します。言っていないことを埋めるときは、推測だと分かるようにしておく。

田中さんの手元にあるのは「上長にも確認します」だけです。上長が何を気にしているかは、まず鈴木さんに確認します。

「検討を進めるうえで、まだ確認が必要な点はありますか」

返ってきた答えをもとに、資料を案内するのか、新しく用意するのか、別の条件を確認するのかを考えます。

確認した答えで、打ち手はこう変わる

田中さんが鈴木さんに電話をかけて、分かったことが次のどれかだったとします。

「まだ上長には見せていなくて、来週の定例で話す予定です」
この返答から分かったのは、共有の予定までです。ここで聞きたいのは、鈴木さんが定例で説明するのに困っていないかです。「どう説明したらいいか迷っている」なら、鈴木さんが話しやすいように要点を3行にして渡す。困っていないなら、定例のあとに上長の反応を聞く約束をして終わりです。新しく作るものはありません。

「上長からは、今のやり方と比べて何が減るのかと聞かれました」
まず、送った資料の中にその答えがあるかを見ます。機能一覧の中に該当する記述があるなら、そのページと見方を案内する。なければ、ここで初めて「作る」が候補になります。ただし、上長が聞いているのは「何が減るのか」なので、例えば、現状と導入後の業務を1枚で比較できる資料が候補になります。誰の、どの判断のための資料かが分かっているので、狙いは定まります。

「来期の予算が固まるまでは動けないと言われました」
確認するのは時期と、予算に載せるために鈴木さんが必要としているものです。費用対効果の説明材料が足りないなら、それは資料の話に戻ってきます。予算枠そのものがまだないなら、時期を確認して待つ判断もあります。どちらかは、聞かないと分かりません。

「実は、担当が変わることになって」
まず、引き継ぎの状況と、新しい担当者が把握していることを確認します。既存の資料が引き継ぎに使えるかもしれませんし、新しい担当者に何を渡すかは、また確認1からです。

4つに共通しているのは、確認する前には「事例集を作る」しか思いつかなかったのに、確認した後は選択肢が具体的になっていることです。作ることも、作らないことも、作るなら何を誰に作るかも、聞いて初めて決まります。

何を作るかは、相手の判断から決める

確認の結果、新しい資料が必要だと分かれば、作る。既存資料で答えられるなら、その使い方を整える。予算や時期が論点なら、そこから話す。作るべき資料は多くあります。比較検討以降の買い手は社内で説明する材料を必要としていて、それを用意するのは売り手の仕事です。順番が先にあるだけです。

プロレクトは、この「何を、誰に、どの順番で作るか」を設計する会社です。作れるものが増えたからこそ、それを決める価値が上がっていると考えています。

読み終えたら:直近4〜5件を見比べる

仮想例は1件でした。自社で確認するときは、資料を渡した商談を直近から4〜5件選んでください。止まった案件だけでなく、進んだ商談も入れます。1件だけを見ると、その案件の事情を資料全体の課題だと思い込みやすいからです。

各商談について、この3項目を一言ずつ残します。

確認すること書き残すこと
誰に、何の判断をしてもらうために渡したか相手と判断内容。分からなければ「不明」
その後、誰が確認する予定だったか。実際に共有されたか共有の予定と、確認できている事実
次に進むための未解決事項は何か相手が話したこと。自分の推測は区別する

並べたら、二つのことを見ます。

一つは、複数の商談で同じ疑問が出ていないか。たとえば3件で「今のやり方と比べて何が変わるのか」と聞かれているなら、共通して使える判断材料を用意する候補になります。ただし同じ「費用が気になる」でも、予算の上限の話なのか、費用対効果への疑問なのかは分けて確認してください。

もう一つは、進んだ商談で何があったか。次の段階へ進む前に、どんな質問や懸念があって、それにどう答えたか。止まった商談との違いは、資料の中身ではなく、渡した相手や共有の経路にあるかもしれません。

4〜5件は、一つの案件だけで決めつけないための範囲です。この件数で原因や傾向が確定するわけではありませんが、「不明」がどこに集中しているかは見えてきます。それが次に聞くことです。

最後に、一つだけ決める

見比べた商談の中から一つ選んで、この一文を埋めてください。

次に、____さんへ、____を確認する。

確認する相手は、顧客の窓口でも、自社の営業担当者でも構いません。すべての商談の不明点を、その場で解決する必要はありません。「聞いていなかったこと」が一つ見つかれば、それが次の一手です。

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