「初回商談で使えるFAQが欲しい」
「費用対効果を説明できる資料も必要だ」
「導入後の流れを、もっと分かりやすくしたい」

営業からも、経営者からも、作ってほしいものが挙がる。どれも理由は分かる。でも、来月すべてを作る時間はない。

こういうとき、すぐ形にできるものから始めたくなります。既存資料をまとめ直せば済むものなら、完成までの道筋も見えます。一方、顧客への確認や社内の情報整理が必要なものは、着手前から仕事が増えるように感じます。

私は、制作候補の優先順位に迷ったとき、まず「誰の、どの判断を進めるものか」「いつ、誰に使うか」を確かめます。候補の説明が揃っていないと、作りやすさだけで比べてしまうからです。

そのうえで、3つの判断軸を使って候補を比較します。今回は、来月の制作計画を決める場面を通して、その考え方を紹介します。

来月、どれを作るか。3つの候補が残った

業務システムを提供するA社では、マーケティング担当の佐藤さんが、営業担当の田中さんと来月の制作候補を整理しています。

候補は3つです。

一つ目は、初回商談用のFAQ。営業が説明している基本的な質問を、既存のサービス資料からまとめ直します。素材は揃っていて、すぐ作れそうです。

二つ目は、費用対効果の資料。顧客の予算承認に使うため、営業から要望が出ています。ただし、「費用の説明をもっと詳しく」と言われたことしか分かっていません。総額が分からないのか、効果の見積もりが欲しいのかは、まだ確認していません。

三つ目は、導入後の役割分担ガイド。検討中の顧客から「導入したあと、当社は誰が何を担当するのか」と質問があり、社内での合意が進んでいません。顧客の担当者とは、来月の社内検討に向けて、営業からその説明を渡す話になっています。

佐藤さんには、まずFAQを作る案が浮かびました。完成させやすく、初回商談の説明を揃えることにも意味があるからです。

ただ、田中さんがいま把握している停滞は、導入後の役割分担を決められないことです。初回説明の不足によって検討が止まっているという情報は、今回の確認では出ていません。

この違いを、3つの軸で比べます。

3つの軸を、同じ候補に当てる

1.止まっている場所に近いか

これまでの商談や既存コンテンツの確認から、顧客の検討がどこで止まっているかを整理し、その箇所を候補の施策が直接助けるかを見ます。止まっている場所の確かめ方は、前回の記事で書きました。

A社で分かっているのは、導入後の担当業務が整理できず、社内の合意が進んでいないことです。役割分担ガイドは、その疑問に答えるための候補です。

FAQにも用途はあります。ただ、初回説明を整えることが、今回の停滞を直接助けるわけではありません。

費用対効果の資料は、判断を保留します。相手が何を確認したいのか分からなければ、その資料で困りごとに答えられるかも決められないからです。

2.商談・受注への距離が近いか

この軸では、検討プロセスのどの段階を助けるかを見ます。プロレクトでは、検討の後期を助けるほど、成果までが近いと評価します。

役割分担ガイドは、導入判断に向けた社内合意を助けるものです。費用対効果の資料も、予算承認で使うという用途は確認できています。一方、今回のFAQは、初回商談でサービスを理解してもらうためのものです。

一つ目の軸との違いは、いま把握している停滞を直接助けるかと、検討のどの段階を助けるかです。重なることはありますが、見ていることは同じではありません。

3.短期間で実装できるか

ここでは、営業が口頭で説明している内容など、いまある素材で作れるかを見ます。

FAQは、既存の説明をまとめ直せるため、素材が揃っています。

役割分担ガイドにも、営業の説明メモや導入手順の資料があります。ただし、顧客側とA社側の作業が一覧になっていません。導入支援の担当者に確認しながら、整理する工程が残っています。

作りやすさは、比較するうえで大切な材料です。ただ、それだけで順番を決めず、ほかの2軸と一緒に見ます。

点数を付けると、何を話し合うべきかが見える

各軸を、3点=強く当てはまる、2点=ふつう、1点=当てはまらない、で採点します。重みづけはせず、3軸の点数をそのまま合計します。

佐藤さんと田中さんは、ここまでに確認した内容をもとに、次のように評価しました。

制作候補止まっている場所に近いか商談・受注への距離が近いか短期間で実装できるか合計
初回商談用のFAQ1135
費用対効果の資料未確認3未確認—
導入後の役割分担ガイド3328

点数は、この仮想例の状況に対する評価です。資料の形式ごとに決まった点数があるわけではありません。

役割分担ガイドの実装しやすさを2点にしたのは、素材の一部はあるものの、担当者への確認と整理が必要だと考えたためです。

FAQは作りやすさが3点でも、合計ではガイドを下回りました。今回の停滞を直接助けるか、どの段階の判断に使うかも、一緒に評価しているからです。FAQが悪い案なのではなく、今回比較している状況では、先に取り組む理由がガイドの方にあります。

費用対効果の資料には、無理に点数を付けません。「分からない」と「当てはまらない」は別です。相手が何を知りたいのかも、使える素材が足りるかも、まだ確認していない。3軸が揃っていないため合計は出さず、追加確認に回します。低い順位が付いたわけではありません。

この採点は、社内で議論するための目安です。点数が絶対的な正解を示すものではありません。同点になった候補は、各軸の点数と、そう評価した理由を並べて話し合います。

経営者には、選んだものと残した宿題を伝える

佐藤さんは、役割分担ガイドを来月の制作予定に入れる案を経営者へ伝えました。

経営者からは、「FAQなら早く出せるのに、ガイドからでいいのか」と聞かれます。

佐藤さんは、点数だけでなく、その根拠を説明します。

「FAQの素材は揃っています。ただ、今回確認できた商談では、導入後に誰が何をするかを説明できず、社内合意が止まっています。ガイドは、その判断に使ってもらう予定も決まっています。まずはこちらに制作時間を使いたいです」

あわせて、費用対効果の資料は順位を決められていないと伝えます。

「費用の資料は、顧客が何を知りたいのかを田中さんに確認してもらいます。今週中に内容を確かめ、ガイドの制作に着手する前に、計画を見直す必要があるか判断します」

これなら、「8点だったので作ります」で話が終わりません。何が分かっていて、何がまだ分からないかを、経営者と共有できます。

次に、制作予定を具体化します。佐藤さんが構成を作り、導入支援の担当者が内容を確認し、田中さんが顧客へ渡す。顧客の社内検討に間に合うよう、確認日と渡す日を決めます。

佐藤さんは、ガイドの制作と確認に使う時間を見積もり、通常業務と両立できるかも確かめます。今回はFAQの制作を同時に始めないことで、その時間を確保する案を経営者と合意しました。

私は、制作計画には、完成日だけでなく、誰が内容を確認し、誰が相手へ渡すかまで入れたいと考えています。使う場面が決まっている資料なら、そこまで予定に入れて初めて、制作の段取りを具体的に話せます。

選ばなかった候補を、曖昧に残さない

FAQは「後回し」です。今回はガイドを先に作りますが、初回説明で繰り返し出る質問や、既存資料では答えにくい点が確認されたら、改めて制作を検討します。

費用対効果の資料は「追加確認」です。顧客の疑問と、使える材料が分かってから、採点と制作予定を見直します。

この二つは、同じ保留ではありません。FAQは比較したうえで順番を後ろに置き、費用対効果の資料は比較に必要な情報を集めています。

「作らない」という判断になる候補もあります。相手の疑問を確認した結果、既存資料の案内で答えられるなら、新しい資料は作らず、その使い方を整えられます。

候補を選ばなかったときは、理由と次の扱いを残します。「今回は見送り」だけでは、次の会議でも同じ候補を同じ情報で話し合うことになるからです。

形式の名前だけで、順番を決めない

プロレクトでは、「施策の正解は、形式からは決まりません」という考え方で候補を見ます。

FAQだから先、事例集だから後、という順番はありません。今回の仮想例でも、FAQを必要とする停滞が見つかれば、評価を見直すことになります。

現状の数字、買い手の停滞理由、既存コンテンツを照らし合わせて、候補を比較できる状態にする。そして、選ぶ理由と、まだ確認することを分ける。

プロレクトが設計したいのは、何を作るかに加えて、誰の判断に使い、どの順番で届けるかです。

読み終えたら、来月の候補を比べてみる

自社で挙がっている制作候補について、誰のどの判断に使うのか、いつ誰に渡す予定なのかを確認してみてください。そのうえで、3つの軸から比べます。

候補が多くても、最初からすべてに点数を付ける必要はありません。用途や必要な情報が分からないものは、確認事項を残します。

着手する候補が決まったら、次の一文にします。

来月は、____さんが____を判断するために、____を作る。

あわせて、作る人、内容を確認する人、相手へ渡す人が、その予定で動けるかを確かめます。選ばなかった候補には、「後回し」「追加確認」「作らない」の理由を一言残し、再検討するものには条件も添えます。

判断材料が足りなければ、今日は制作物を決めず、確認する相手と内容を決めるところまででも構いません。

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